東京高等裁判所 昭和41年(う)2443号 判決 1967年3月06日
主文
原判決を破棄する。
本件を浦和簡易裁判所に差し戻す。
理由
控訴趣意一について。
所論は原裁判所が公判廷でないところで審理、判決し、審判の公開に関する法令に違反したことを主張するにあつて、その要旨は、原裁判所が本件につき公判期日と称して取調を行い、判決を宣告した場所は、浦和地方裁判所構内の建物で、通常道路交通法違反者中交通切符により起訴された者に対し、浦和簡易裁判所が略式命令を発布する際に使用されている裁判官及び裁判所書記官の事務室であつて、公開されておらず、公判廷とはいうことのできない場所である。公判廷たるためには、単に裁判所の建物内であるだけでは足らず、公判廷たるの体裁、設備を備え、関係者及び一般公衆が公判廷と認識し得べきものたることを要し、さらに公判期日が指定され、同期日にこの建物を公判廷として使用する旨を検察官、被告人弁護人に通知するはもちろん、一般公衆にも自由に傍聴し得るよう周知せしめることを要する。本件についてみるに、前記事務室は、雑然たる木造建物内の一室で、法廷としての構造、設備を備えていないのみでなく、従来法廷として使用された事実もない場所であつて、室の外観、設備、造作等からみても、一般公衆がこれを法廷として認識し、自由に入廷して傍聴し得るような構造を備えていない、傍聴人出入口の表示や傍聴人席の設備もなく、公衆の傍聴は不可能である、本件判決を宣告するまでの手続を行うに先立ち、右事務室を法廷に使用し、公衆に公開して裁判を行う旨の宣言や通知は、検察官に対し全くなかつたので、検察官としては、この事務室を公開の法廷と考えることは不可能であつた、右事務室に呼ばれて行つた検察官及び被告人に対し、裁判官からこの事務室を法廷として裁判を行う旨の告知がないまま、裁判所の独断専行で審理が開始されて二、三の取調が行われ、無罪判決宣告後に、裁判官と裁判所書記官との間で、「ここを法廷にしておけばよいだろう。」と私語し合つていたに過ぎないのである、右のように、原裁判所の対審及び判決は、審判公開に関する憲法、裁判所法、刑事訴訟法の諸規定に違反し、刑事訴訟法第三七七条第三号に該当する違法があつて破棄を免れないというにある。
よつて案ずるに、刑事訴訟法第二八二条第一項によれば、公判期日における取調は、公判廷でこれを行うことに定められており、右条項にいう公判廷とは、憲法第八二条第一項にいう公開法廷を意味し、裁判所法第六九条第一項によれば、法廷は、裁判所又は支部でこれを開く旨定められている。そして、全国各裁判所及びその支部には、その庁舎内に、右憲法の規定によつて要請されている公開法廷というにふさわしい設備を備え、法廷と呼称されかつ法廷と表示された区画部分があるである。右法廷の設備中には傍聴人が自由に出入しかつ傍聴できる傍聴席が含まれており、これが裁判の公開に資せられている。それ故、公判期日の取調にあたり、公判廷を開くにあたつては、原則として、各裁判所及びその支部に設けられた右法廷を使用すべきである。しかし、各裁判所及びその支部の裁判事務の輻輳により既設の法廷のほかに臨時に既設の法廷以外の裁判所又はその支部の庁舎内において公判廷を開く必要の生ずる場合もあり得るが、かかる場合においても、前記の公開法廷の要請に添う配慮をすべきである。すなわち、当該法廷として使用すべき場所に法廷たることを表示するとともに、傍聴席を設け、傍聴人が自由に出入りできるような配慮をすべきである。なお、この点に関し、旧刑事訴訟法第三二九条第一項にいう公判廷の意義につき、同条項にいう公判廷とは同条第二項所定の者(判事、検事及び裁判所書記)が全部列席して開かれた審判廷をいうのであつて、かりに判事の事務室で開かれたとしても、右第二項所定の人員が総て列席して開かれた以上それがすなわち公判廷であると判示した最高裁判所昭和二三年七月二九日判決(刑集二巻九号一〇七六頁)があるが、右判例の事案は、本件のように裁判官等の事務室が公開の法廷であるかどうかが争われた事案ではなく、公判調書に公判開廷の場所として大阪高等裁判所第五刑事部と記載されたことが公判廷でなく判事室と見るほかはないとして争われた事案であり、同判例は、右摘示のほか、公判調書に右のような記載があれば、わが国裁判所の慣例上裁判所構内の特に法廷として築造された室において開廷されたことがわかる旨を判示し、仮定論として判事の事務室でも公判廷となり得ることと判示しているのであるから、本件のように、裁判官等の事務室が公開の法廷といえるかどうかが争われた事案については、適切な判例とはいえない。
本件について考察してみると、当審証人杉田暢一及び同井上輝恵の各供述を総合すれば、原裁判所の本件道路交通法違反被告事件の審理及び判決は、浦和簡易裁判所の法廷以外の場所で同裁判所が道路交通法違反者中交通切符により起訴された者に対し略式命令を発布するため使用されている裁判官及び裁判所書記官の事務室で行われ、この事務室は同裁判所の建物の一室ではあるが、一般公衆が自由に出入りし傍聴できるような設備のある場所ではなく、右審理及び判決をするにあたつて、右事務室を法廷として使用する旨の検察官、被告人ら訴訟関係人に対する明確な告知もなく、また、右事務室を法廷とする旨の掲示その他の表示もされなかつたことが認められる。また、本件の審理及び判決にあたつて、浦和簡易裁判所の法廷が使用できなかつた特段の事情も認められない。そして、右のような事務室は、通常法廷として使用するに不適当な場所であるのに、特段の事情もないのに、法廷以外の場所である右事務室を使用し、その事務室が一般公衆の自由に出入りし傍聴できるような設備のない場所であり、かつ、当該事務室に法廷たることの表示もせず、訴訟関係人に明確に法廷とする旨を告知することもなかつたのに、本件の審理及び判決をした原裁判所の訴訟手続には、憲法の所期する公開法廷といい得ない場所で公判廷を開いたという憲法第八二条第一項、刑事訴訟法第二八二条第一項の規定の違反があり、刑事訴訟法第三七七条第三号所定の「審判の公開に関する規定に違反したこと。」に該当する違法があるものと解されるのである。論旨は理由があつて原判決は破棄を免れない。
控訴趣意二について。
所論は原裁判所の訴訟手続の法令違反を主張するにあつて、その要旨は、(1)本件は、いわゆる交通切符方式で、捜査、送致された道路交通法違反事件につき、検察官が略式命令を請求した事件であるが、裁判所がこれを通常の規定に従い審判することを決定したときは、直ちに検察官にその旨通知し、被告人に対し、起訴状謄本の送達、弁護人選任権等の告知をし、公判期日を定め、検察官、弁護人らに通知するなど、通常の規定に従つた公判準備を行わなければならない、ただ、交通切符方式による特質から、裁判所は、通常の規定に従い審判を行う旨検察官に通知するとともに、交通切符中起訴状の部分を裁判所に残し、その他の部分すなわち証拠関係に関する部分等は、検察官官に返戻し、検察官は改めて、起訴状謄本を作成し、裁判所に差し出し、これが被告人に送達されるのである、かような手続が行われることによつて、検察官は、その事件につき通常の審判が行われることを知り、公判に対する準備をしなければならない、しかるに、本件において、検察官に対する通常審判の通知がないため、その後の一連の手続が履践されないのはもちろん、検察官として公判の準備をする機会と余裕が全く与えられていない、(2)原裁判所は、公判期日に裁判官、裁判所書記官の列席、検察官出席の上、公判廷を開き取調を行つた事実がなく、また、なんら口頭弁論に基づくことなく、卒然と無罪を言い渡した訴訟手続の違反がある、すなわち、第一回公判調書によれば、適式に公判手続が履践されているように記載されているが、実際にはこのような訴訟手続は全く行われなかつたので、検察官は、判決後昭和四一年九月二八日原裁判所に対し、公判調書の記載に対する異議申立をしたのである、右の第一回公判といわれているものの事実関係は、次のとおりである、当日検察官事務取扱検察事務官杉田暢一は、浦和簡易裁判所内の交通事件取調室において、交通切符により、本件被告人に対する道路交通法違反事件につき取調をし、浦和簡易裁判所に対し、公訴を提起し略式命令を請求し、一件記録を隣室の同裁判所に提出し、しばらくして、裁判官に呼ばれて、右検察事務官が隣室の裁判官の事務室に入つたところ、続いて、被告人も呼ばれて同事務室に入つた、すると、その場で、裁判官は、いきなり、右検察事務官に対し、「この起訴状どおりでよろしいですか。」と質問し、「結構です。」と答え、次いで、裁判官は、被告人に対し、「これに書いてあるとおり間違いないか。」と質問し、交通切符を示したところ、被告人は、「そういう条文のあることは知らなかつた。」と答え、裁判官は、「知らなかつたでは済まされない。」といつたのち、直ちに無罪の判決を言い渡したのであつて、検察官や被告人に対し、その日を公判期日と定め、その場所を公判廷として公判を開くという通知はなんらなされていない、それ故、裁判官、裁判所書記官が列席し、検察官が出席して公判が開かれたとはとうてい認め難い状況であつた、右検察事務官は、単なる打合程度にしか考えていなかつたので、起訴状の朗読、証拠調請求、訴因罰条の訂正、変更、最終意見の陳述等は、その場で行うべきものとは全く考えていなかつた、裁判官も、また、被告人に対する人定質問や黙秘権告知をせず、検察官に証拠調請求、最終意見陳述の機会を与えず、被告人が最終意見を述べた形跡がない。以上の原裁判所の訴訟手続の法令違反は、判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決は破棄を免れないというにある。
よつて、記録を精査し、当審証人杉田暢一及び同井上輝恵の各供述を総合して考察すれば、次のとおりである。
(1)本件は、いわゆる交通切符方式による略式命令請求事件であるところ、原裁判所は、請求を受けた当日である昭和四一年九月一六日略式命令を発することができないから通常の規定に従つて審判する旨決定したことが明らかである。このように裁判所が通常の規定に従い審判することを決定したときは、直ちに検察官にその旨を通知し、書類及び証拠物を返還し(刑事訴訟法第四六三条第三項、刑事訴訟規則第二九三条、第二八九条)、被告人に対し、起訴状謄本を送達し(同法第四六三条第四項、第二七一条)、弁護人選任権等の告知をし(同法第二七二条)、公判期日を定め、被告人を召喚し、公判期日を検察官、弁護人らに通知しなければならない(同法第二七三条)。もつとも、交通切符方式による公訴提起、略式命令請求の特質に鑑み、検察官に対する書類及び証拠物の返還は、起訴状が記載されている交通事件原票から、道路交通法違反現認報告書及び被告人の供述調書部分を切り取り、これと表面告知票、免許証保管証、裏面略式命令。即決裁判結果通知書と記載された書面一通とを返還するをもつて足るものであり、検察官は別に起訴状謄本を作成して提出すべきものと考えられる。しかるに、原裁判所は、通常の規定に従つて審判することを決定しながら、右書類の返還、起訴状謄本の送達、弁護人選任権等の告知等の手続をとつていないことが明らかであり、単に浦和簡易裁判所略式事件係から同庁公判係に宛てた記録送付書が作成されているに止まるのである。(もつとも、弁護人選任に関する通知がなされたような記載〔記録表紙裏に弁護人選任に関する通知の下に書記官の押印がある〕があるが、これを被告人に送達したことを認めるに足る送達報告書がないので、この手続が行われたものとは認め難い。)公判期日の指定については、表紙裏に裁判官が昭和四一年九月一六日午前一一時と指定し、これを書記官が被告人及び検察官に通知した旨の記載があるが、右公判期日の調書その他被告人及び検察官が右公判期日を了知したことを証する書面が記録に編綴されていないのに加えて、後記(2)に説示するような事実が認められるので、正規の手続による公判期日の通知がなされたものと認めることができない。
(2)原審第一回公判調書には、昭和四一年九月一六日浦和簡易裁判所において、裁判官、裁判所書記官が列席し、検察官が出席し、被告人が出頭して、公判を開廷し、人定質問が行われ、被告事件に対する陳述として、被告人が事実としてはそのとおりですと述べ、検察官が最終意見として、別にありませんと述べ、被告人が最終陳述として、別にありませんと述べ、裁判官が判決宣告をしたという訴訟手続が記載されているのに対し、検察官から、右公判調書に対し、法定期間内に、実際には公判が開かれていない、被告人に対する人定質問が正規に行われていない、検察官に対し最終陳述の機会を与えておらず、また最終陳述を述べたこともない、被告人に最終陳述の機会も与えていない旨の異議申立がなされているので、原裁判所の訴訟手続が適式に履践されたかどうかについて考察してみると、昭和四一年九月一六日浦和区検察庁検察官事務取扱検察事務官杉田暢一が浦和簡易裁判所分の交通事件取調室において、交通切符により本件被告人に対する道路交通法違反事件の取調をし、浦和簡易裁判所に対し、公訴を提起し略式命令を請求し、一件記録を隣室の同裁判所に提出し、しばらくして、裁判官に呼ばれ、隣室の裁判官の事務室に入り、続いて、被告人も呼ばれて同事務室に入り、同事務室には裁判所書記官井上輝恵がおり、その場で、裁判官から検察官に対し、この起訴状どおりでよいかとの問を発し、検察官から結構である旨答え、次いで、裁判官から被告人に対し、交通事件原票を示しながら、これに書いてあるとおり間違いないかと問い、被告人はそういう法令のあることは知らなかつたと答え、裁判官は知らなかつたではすまされないと発言したのち、本件は無罪との判決を言い渡したという経過であつたこと、右のような手続をするにあたり、検察官としては、公判期日指定通知を受けたこと及び裁判官から右事務室を法廷とする旨の告知を受けたことはなく、また、起訴状の朗読もしたことはなく、裁判官が被告人に対し、黙秘権の告知をしたこともなく、さらに、検察官が最終陳述の機会を与えられたこともなかつたことが、それぞれ認められるのである。右の原裁判所がした訴訟手続には、既に控訴趣意一について判断した公判廷ということのできない事務室で開廷したという違法な点を除いても、なお、適式な公判期日が通知されていないこと、起訴状朗読及び被告人に対する黙秘権の告知を欠いていること、検察官に対し事件に対する意見陳述の機会を与えなかつたこと等の違法があるものといわなければならない。
以上原裁判所の手続には、訴訟手続の法令違反があり、そのうち(2)の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであると認められるから、論旨はこの点においても理由があり、原判決は破棄を免れない。
控訴趣意三について。
所論は、原裁判所は、事件につき審理を尽さず、法令の解釈を誤まり、有罪たるべき公訴事実を無視して、独自の見解で無罪を言い渡し、結局、審判の請求を受けた事件につき判決をせず、または、審判の請求を受けない事件について判決した違法があると主張するにあつて、その要旨は、本件交通切符による公訴事実は、道路交通法第七一条第七号、第一二〇条第一項第九号、埼玉県道路交通法施行細則第一〇条第二号違反の事実(被告人がその運転する大型貨物自動車に砂を積載運搬するにあたり、砂を落すおそれのある方法で積載したという事実)であるが、交通切符作成者である現認警察官が誤つて右罰条のほか過失犯処罰に関する道路交通法第一二〇条第二項にも○印をつけこれを付加したものであるところ、検察官が右付加部分を抹消することなく、そのままで公訴提起し略式命令を請求したもので、右公訴事実は故意犯を掲記したものであるから、罰条中に過失犯処罰の規定を付加したとしても、なんら意味のない無用の記載で、公訴事実をもつて過失犯を記載したものと認めることができないにもかかわらず、原裁判所は、公訴事実と罰条との関係を検討することなく、単に罰条中に道路交通法第一二〇条第二項を付加してあることを取り上げ、過失犯を起訴したものと誤解し、道路交通法第七一条第七号、埼玉県道路交通法施行細則第一〇条第二号に違反する行為には過失犯処罰の規定がないからという理由で無罪を言い渡したのである。現認警察官が過失犯に関する罰条を誤つて記載したのを、検察官がこれに気づかず、そのまま起訴したことは不注意のそしりを免れないが、原裁判所としては、本件公訴事実が故意犯であることに鑑み、検察官に対し、付加された罰条の意味につき釈明を求め、あるいは、右罰条の付加が誤であることを指摘して、検察官に対し罰条の訂正等の変更をなさしめる機会を与えるべきであるにかかわらず、前記のように、誤解した結果、故意犯たる前記公訴事実について判決をせず、公訴事実ではない過失犯について判決したもので、刑事訴訟法第三七八条第三号に該当する違法があるから、原判決は破棄を免れないというにある。
よつて案ずるに、記録中交通事件原票に包含されている本件起訴状によれば、本件公訴事実は、被告人は埼玉県北足立郡大和町下新倉二〇〇七番地先路上を昭和四一年九月一〇日午後三時一〇分頃自家用大型貨物自動車(品川そ八七三号)に砂を積載して運転するにあたり、砂の転落を防止する措置をとらなかつたものであるというにあつて、その罰条には、道路交通法第七一条第七号、第一二〇条第一項第九号、埼玉県道路交通法施行細則第一〇条第二号に加えて、同法第一二〇条第二項が挙示されている。そして、当審において取り調べた埼玉県道路交通法施行細則抄本によれば、同規則第一〇条第二号は、「土、砂、石、水、その他の物を、みだりに飛散させ若しくは落し、又は飛散若しくは落すおそれのある方法で積載しないこと。」とあり、道路交通法第七一条第七号、第一二〇条第一項第九号、右埼玉県施行細則の規定と第一二〇条第二項とを対比してみると、右施行細則に違反することにより道路交通法第七一条第七号に違反し、同法第一二〇条第九号の罰則の適用を受けるのは、故意犯の場合に限り、過失により右施行細則に違反した行為については、処罰規定がないことが明らかである。ところが、原判決は、本件起訴状に前記のとおり過失犯の規定である道路交通法第一二〇条第二項の規定が挙示されているのをとらえて、被告人が過失によつて右埼玉県道路交通法施行細則第一〇条第二号に違反したことを内容とするものと解釈し、右のような過失犯を処罰していないとして無罪の判決をしたことは、判決書の記載によつて明らかであるところ、原裁判所のような解釈を容れる余地がないわけではないが、所論のように本件公訴事実は故意犯を起訴したものであつて、過失犯を起訴したものではなく、従つて、道路交通法第一二〇条第二項の過失犯の規定を挙示したのは、罰条の記載の誤ではないかと解釈し得る余地が大いにあるのである。このような場合に原裁判所のとるべき措置としては、公訴提起をした検察官の真意を確かめるため、右過失犯の規定の挙示についての釈明を求め、検察官をして、右罰条の削除による罰条の変更をなし得る機会を与えるべきである。しかるに、原裁判所は、検察官に対し、右罰条について明確な釈明をせず、罰条変更の機会を与えないで、前記のとおり、本件公訴事実を過失犯の起訴であると速断して無罪の判決をしたものであつて、釈明権不行使による審理不尽の違法があり、この訴訟手続の法令違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は、結局この点において理由があり、原判決は破棄を免れない。(松本勝夫 真野英一 深谷真也)